医療業界はサスティナブルではない ─
本職が既に社会貢献度が高く、時間も体力も十二分に搾取されている医療現場で、さらに社会貢献活動へと行動を移すのは簡単ではないと感じます。今回は、そんな現場最前線でクリニックを運営する一方、自らの提言で公益社団法人のコミュニティ・アンバサダーへ就任し、『頑張り過ぎない社会貢献』を目指す、銀座アイグラッドクリニック 乾 雅人院長にお話をお伺いしました。
─ 現在の活動内容を教えてください。
銀座で美容皮膚科クリニックを経営する一方、2022年1月から公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのコミュニティ・アンバサダーを務めています。任期は1年、テスト試用で始まったこの役割ですが、まずはドクターサロンを開催し、医師同士の意見交換会を実施しました。通常こういった組織の勉強会は、様々な分野から参加されるため、内容が深堀しづらいのが現状です。これを医師専門の開催にすることで、より専門性の高い議論ができ、セーブ・ザ・チルドレン側はその知見を共有したり、普段広くアプローチの機会が限られている分野・情報をもつネットワークやコミュニティとの接点をもったり、ともに社会課題について考えたりすることができます。これは医師に限らず、他の士師業や事業経営者など、分野ごとに派生していくことができるので、是非今後の参考にしていただきたいですね。
アンバサダーとしての活動は、今後チャリティーイベントの開催なども企画しています。
─ セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンを選ばれた理由は?
中高の母校の校訓から、「健全なる社会が末代まで続きます様に」という祈りがあります。子ども無くしてサスティナブルな社会は謳えないですよね。少子高齢化も教育/労働問題も、ありとあらゆる場面で子どもがスタートになっています。それにも関わらず、この国では子どもに纏わる行政機関が縦割り構造になっていると思います。一気通貫で子どものことだけを考える組織がありませんでした。セーブ・ザ・チルドレンの子どもの主権を遵守する考え方と、政策提言の実績を知り、今回の就任に至りました。
このような団体も普段だったらなかなか繋がれないですが、私の個人的な経験と、存在意義や社会貢献性を謳うパーパス経営(企業の存在意義を問う経営の仕方)を行うことで、理念や思想がご縁に結びつきました。今回の就任で、お互いに相乗効果を生み、Win-Winの関係性にしていかなければならないですね。
─ 実際にこういった社会問題に携わられるきっかけは何だったんでしょうか
医療の現場が、到底サスティナブルと思えなかったからです。医療一家の次男として育ちました。父親は京大医学部卒。兄も私も東大医学部卒。社会の為に、医療の為に、一生懸命でした。でも、医療(保険診療)の財源は国家予算、税収です。国家財政(歳入)が増えない以上、無い袖は触れません。理想の医療を追求する為には、現実的な財源が必要でした。研究も同様で、大学院生の時は研究費の確保が困難でした。こうした状況ですので、大学病院での勤務条件も厳しいものでした。頑張れば頑張る程に、生活に困窮していく。医療業界(保険診療)の特殊性です。大切な部活後輩を、自分の職場にスカウト出来ないことが本当に辛かったです。現場の医師は、既に、十分過ぎるぐらいに自己犠牲を払っていると思います。今回のコロナウイルスをきっかけに、医療現場の問題が表面化しただけで、この課題はずっと水面下にありました。社会はこの問題を、今尚、解決出来ずにいます。
─ 医療業界自体に社会問題が顕著に現れていたんですね
1983年、今から40年近く前、医療費亡国論というものが話題になりました。増大する医療費が国家財政を破綻させる。他の産業が”納税”し、その税収を”分配”して医療が成立してきました。財源が限られる今こそ、医療が”納税”して、他の少子化対策や貧困対策の財源になっても良いのではと思います。この意味で、医療業界にプロ経営者が組織的に育成される必要があると考えています。医療現場の問題を解決するためには、「経営の力」を使うしかないと思う半面、医療業界がビジネスの論理だけで動くと、それは違うんじゃないかと思います。Z世代の方々に響くパーパス経営。この追求に、特別な使命感を感じています。
─ 今後目指していくビジョンはございますか??
『頑張り過ぎない社会貢献』の実際を体現することです。寄付行為や、自己犠牲を伴う滅私奉公は美しい物語ですが、自分以外の人には強制出来ません。若い時は、体力や気力の充実で実行することが出来ても、それではサスティナビリティがない。なので、『文脈の再定義』により、同一の労力で生産性を高める工夫を頑張りたいです。例えば、私は株式会社きものブレインの顧問でもあります。同社は、特殊な繭糸から出来る日焼け止めを通販サイトで販売していました。私とタイアップすることで、それはドクターズコスメになります。製品の特徴、企業の歴史、私の背景から、その商品は、肌を守り、地球環境を守り、障害者雇用を守り、子供を守る。事業拡大した先には、地域経済を守り、日本文化を守ります。こういう視点、『文脈の再定義』は、コロンブスの卵の様です。一人でも多くの方に「私でも出来るかも」と感じて頂きたいのです。そうして、似た様な事例が増えると、一層、社会が良くなると信じています。『パートナーシップで目標を達成しよう』は、SDGsの17番目の目標でもあります。一人でも多くの方、企業と連携して、健全なる社会を末代まで続かせたいです。
─ 最後に、若者へメッセージをお願いします!
皆さんの”意思”が全てです。成し遂げたいことがあれば、場合により、私を活用して下さい。医師免許をお持ちでなくとも、私と連携することで、医療行為や、社会への問題提起も可能です。やりたいことが見つからない場合には、日々を丹念に、自分に正直に、生きて下さい。迷ったら、外の世界に飛び出し、環境を変え、未知なる状況に身を置いて下さい。そうして、自分自身を見つめ直して下さい。生の経験、実体験が、きっと、将来の生きる力、”意思”に繋がると思います。
1984年、医療一家の次男として生誕。兄弟ともに東京大学医学部を卒業。医療現場の問題解決のために、自身がプロ経営者になることを決意。2020年、銀座アイグラッドクリニックを開業。『自然美の追求』に特化した美容皮膚科クリニックを経営。
医療法人社団創雅会 銀座アイグラッドクリニック
理事長 院長 乾 雅人
https://ginza-iglad.com/