海外に比べると「ベジタリアン」「ヴィーガン」がなかなか浸透していない日本でも、最近耳にすることが増えてきましたよね。ベジタリアンと聞くと健康志向のイメージが先行してしまいますが、動物たちの命、環境問題にも結びつく、立派な社会貢献活動なんですよね。様々な経験からベジタリアンを自ら選択し、この食文化の発展に取り組む、NPO法人べジプロジェクトジャパン 代表の川野陽子様にお話をお伺いしました。
─ ベジタリアンというと動物愛護のイメージがありますが、川野様もそういったご経験が?
以前飼っていた犬が、私が20歳の時に死んでしまったんです。それまではその子だけを可愛がっていたので、他の犬の殺処分の事実を耳にしたことはあっても、立ち止まって考えたことがなかったんですよね。愛犬との別れに泣いていると、近所のおばさんが「そんなに泣いてる暇があるならレスキューして!」と、プルプル震えたチワワを持ってきたんです。そのチワワは繁殖犬で、出産を経験しすぎて産めなくなり、捨てられるところをおばさんが助けたと聞きました。これまで檻から出たこともなかったので、抱っこされている状態が怖くて仕方なくて震えていたんです。
「こんな犬がいるの?」と現実を目の当たりにして、もっとこの現状を知るべきだと実感しました。当時は1日1000匹が行政によって殺処分されているような時期だったんですが、その数に本当にびっくりしました。こういった知識や解決したいと思う気持ちは大事なことなのではないかと思い、在籍していた大学で学生向けに勉強会を開いたり、前述のおばさんも一緒にお話いただくような機会を設けたりしました。
─ そこからご自身のベジタリアンに繋がっていったんですか?
まさにそうです。実は大学時代、オランダの友人が「ヨーロッパでは環境のことを考えて、ベジタリアンになる人が増えているんだよ」と話してくれたことがあったんです。その時は「なんで環境とお肉を食べることが繋がるんだろう」と分からず流してしまいました。
当時は、普通にお肉を口にしていましたが、豚や牛も犬や猫と同じで、実際に触れ合う場や機会があったらみなさん「かわいい~」ってなると思うんですよね。それに、その子たちが死んだら悲しいと思うのではないでしょうか。愛犬の死をきっかけに、「お肉を食べること」についても考えるようになりました。
また、大学時代を過ごした京都は、その当時から、ちょっと自転車で移動すれば、ヴィーガンの美味しいお料理を食べられたんです。こんなにお肉がなくても美味しいお料理があるなら、命をいただくことをしなくてもいいなと思って、自分自身でベジタリアンを選択しました。
─実際にプロジェクトを始めたきっかけは?
自分がベジタリアンになっても、やはり周りに全然理解されないし、京大っていろんな人が集まっているはずなのに選択肢がなかったんです。まずは自分のいる大学の食堂にヴィーガンの選択肢をつくろうと思い、「ベジプロジェクト(ベジプロ)」が誕生しました!この活動が団体の原点となります。
大学を卒業してからも、会社員をしながら「ベジプロ」の活動を続けていたのですが、私にとって大きな転機が訪れます。ご縁があり、ポールマッカートニーさんとお会いする機会がありました。彼自身もそうですが、音響やカメラマン、スタッフのみなさんが本当にそれぞれの仕事のプロフェッショナルだったんですよね。プロの自覚と責任に感銘を受け、自分も大切にしていることでプロフェッショナルとして本格的に活動したいなと思い、ベジプロをNPO法人にしました。
NPOにしてからは、大学だけではなく企業や自治体さんとのお付き合いも増えてきました。ほとんどは食品に関することですが、 コスメやまちづくりの案件なども増えてきていますね。その全てが「ヴィーガンの選択肢を増やす」というところに向かって取り組んでいます。
─ 具体的な活動内容を教えてください。
ヴィーガン、ベジタリアン、プラントベースに関して、事業者の方へご相談に応じることがほとんどです。お問い合わせの内容は、商品化するためにどうしたらいいか、ヴィーガン認証を取るにはどうしたらいいかといった内容が多いです。ご相談対応の他には、ヴィーガン認証マークの交付、ベジマップの制作、情報発信やイベントなども行っています。最近はお問い合わせを毎日複数いただいたり、講演依頼が来たりと皆さんがヴィーガンに関心を持たれていることを感じます。
─ 今後目指していくビジョンはございますか??
実は私のビジョンのうち、第一段階はもう叶っているなと考えています。10年前はお店でもなかなかヴィーガンのお肉を買えませんでしたが、今はそれができるようになっているので嬉しいですね!
ただ「当たり前」の水準までは全然到達していなくて、、、「ヴィーガンの選択肢」は、ヴィーガンのためだけではなく、地球や動物、人のことを考えると無視できなくなってきているテーマだと思います。私は今東京にいるのでそういった選択肢が増えていますが、やっぱり地方に行くとまだまだ選択肢がないので、当たり前に「ヴィーガンのチョイスがある世の中」を作っていきたいですね。
今の日本は、ほとんどの物や環境が整っていますよね。その次のステップで、「よりよい生き方」を考えたときに、自分だけが幸せで、自分だけが好きなものを食べ続ける、とはならないと思うんですよね。より他の人や生き物のこと、地球や未来のことを考えていく人が増えていってほしいなと思います。その皆さんのよりよい選択に私自身もお力添えできれば嬉しいですし、「ヴィーガンの選択肢を選んでみることがちょっといいこと」という感覚が生まれるといいなと思います。
2013年、京都大学在学時にベジプロを設立し食堂にヴィーガンメニューを導入。2016年、ベジプロジェクトNPO法人化 代表理事就任。
企業や自治体にベジタリアン・ヴィーガン対応のコンサルティングを行う他、ヴィーガン認証、ベジマップ制作、メディア発信など、ヴィーガンの選択肢作りのための活動を続ける。
NPO法人べジプロジェクトジャパン
代表理事 川野陽子
https://vegeproject.org/